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ファンタジーや神話、子どもの本について等、

のんびり書き記したブログのアーカイブです。

 

月曜から日曜まで、『日常』は、太陽系の7惑星。

そのはざまに浮かぶ、『矮惑星』のような、

夢見がちな時間の記録として。

 

 

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も、どうぞよろしく☆

 

 

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CATEGORY: 読書メモ

 

 

TITLE: HOOT (その2)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 09/03/2017 10:26:01



息子はもうすぐ19歳になるが、
最近の政治事情をネタに会話してみた。
男の子のことはよくわからないので、
常日頃は放置気味。たまの会話は気を使う。('◇')

いまのアメリカは児童文学でいったら
「カール・ハイアセンが描いた
フロリダの白人少年の冒険物語みたいな世界」
とたとえてみた。
息子はハイアセンの作品を読んでいない。
だから内容を説明した。
それはたとえば
「Scat」(2009年)が描くフロリダなら、
父ちゃんはイラク戦争帰りで片腕を失っていて、
母ちゃんが地元の刑務所の看守で、
ヤンキーないじめっこもいるし、
銃社会だし、
ガッコの先生は事なかれ主義だし、
お金持ちも案外と家庭崩壊していたりする世界で、
そんなフロリダが激戦区となった先の大統領選では、
トランプが競り勝って、
つまり白人の中間層の疲弊ってそういう感じなのかもね、と。

トランプが刑務所社会を作ったのではなく、
そうした社会への怒りが
トランプ政権を誕生させたのだろうし、
怒りのもとはグローバル化社会の、
納税者の疲弊なのよ、と。

そしたら息子は、
アメリカはもう「たんぽぽのお酒」の世界ではないのか?
と言うので、どこか切ないやら、
そんな本のタイトルが会話に出てきてうれしいやら。
常日頃は放置気味だけど、
なんだか気が合う、趣味が合うぜ。( ノД`)☆彡

そう、それ、
レイ・ブラッドベリの「たんぽぽのお酒」、
いわばローカリズムの世界観で、
1928年のアメリカを郷愁豊かに描いていた。
トランプは、第二次大戦前のアメリカに戻したい、
と言っていたっけ?
そのいわんとする過ぎ去った時代の空気感は、
わからなくもない。だからといって、
トランプの白人至上主義がいいとも思えないけれど。




そんなことを考えていたら、
ここ日本の自然豊かな愛媛県今治市で、
政治問題に揺れる加計学園・獣医学部に対抗して、
今治市民が
「野間馬をまもろう!」と言い出した。
獣医学部の学生の実習用に
地域記念物で日本に60数頭しかいない
貴重な野間馬を使わせないでほしい、
野間馬をまもろう、というのだ。

この展開、そして公的文書に基づいた戦法といい、
まさにハイアセンが描いた「HOOT」(2002年)そのものだ。

「HOOT」では、
主人公の白人少年のパパがFBI勤務のエリートで、
たしか土壇場で公文書を丹念に調査して
大手食品会社の不正を暴いてくれたから、
メデタシなんだけど……
現代アメリカの冒険小説で
フロリダのアナホリフクロウが保護されたように、
ここ日本で「今治の野間馬」が保護されますよう、
と祈らずにはいられない。





HOOT カール ハイアセン@amazonJP より

 

 

 

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TITLE: HOOT (カール・ハイアセン作)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 02/06/2017 13:22:42




「HOOT ホー」
(カール・ハイアセン 作、千葉茂樹 訳、
2003.4 第一刷発行、理論社)


久しぶりに図書館の児童書コーナーで
読み物を借りてきました。
「2ちゃんねる」ばかり読んでいると、
情緒が枯渇しそうなので……(;^_^A

カール・ハイアセンの作品は
以前に読んだことがあり、
とても面白かったので
彼の児童文学デビュー作という「HOOT」は、
やはり読んでおかねば……と。
そして分厚くみえた一冊、期待通りに面白くて、
軽いテンポで一気読み。
一気呵成に駆け抜けるような
シンプルな日常の冒険物語で、
まるでトム・ソーヤの現代版。
意表をつくような展開ではないのですが、
クールで熱血、友情の勝利に至るクライマックスには、
ジ~ンとくるものがありました。

以前に読んだ「スキャット Scat」
に比べると、軽快な冒険活劇の面が
より一層強調されているかもしれません。

「スキャット Scat」についての
以前のブログ記事は以下リンクから。


上記のブログにも記してあるのですが、
作者のホームランドであるフロリダを舞台に、
現代アメリカの姿をよくとらえた作風です。

フロリダ州は、昨年の大統領選挙でも
激戦区となり、おおいに注目された土地柄です。
フロリダ州を逆転により制した共和党のトランプ氏が
新しい大統領に選ばれたのは、鮮烈な出来事でした。
そのとき盛んに報じられた「白人中間層の支持」ですが、
では白人中間層というと、どんな人々なのだろう?
日本人である私には、ピンときません。
そんなとき、思い浮かんだのが、
「あ、たしかカール・ハイアセンの作品に
描かれていたような、とても様々な人々?」
というおぼろげなイメージでした。

ニュースやインターネットではつかめない、
時代の空気感、人々の日常の思いや風景を、
いきいきとした眼差しで垣間見せてくれるのは、
文学の魅力かもしれません。
さらに、曇りのない眼差しで
希望のありかを示してくれる物語の運びは、
児童文学の大きな魅力かもしれません。
(*^-^*)




 

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TITLE: 「エジプト神イシスとオシリスの伝説について」プルタルコス著

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/21/2016 11:32:19


図書館で借りて読んだ。
以前に読んで記憶に残っていたので、
気になって再読。

西暦46-125年頃に活躍した
ギリシアの神官プルタルコスの著作。
イシス信仰の影響力の大きさを伝える。

イシスの宮を「イセイオン」と
ギリシア風に記述。

日本の伊勢神宮も、
イシス信仰が源流だったりしたら、
面白いな……


伊勢神宮、一度もでかけたことがない。
一度はお伊勢参りしとこかな……

例えばクサナギノツルギが祀ってある
「熱田神宮(アツタジングウ)」も
中東・地中海沿岸地域で信仰された
古代の軍神・農耕と治水の神である
アッタル神の系譜だったら面白い……
などと妄想。



 

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TITLE: ノヴァーリス

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/18/2016 17:35:27


昨日は図書館で本を探すついでに
夕暮れの公園を散歩……

マンション内のトランクルームの
段ボール箱のどれかには
埋もれているはずの本、
もしかして図書館で探す方が楽?
と思いつきました……まだまだ
色々と未整理な現状……(;'∀')

もうじき夏の暑さが峠を越えれば、
公園や図書館への
お散歩が楽しくなるね……(*^-^*)

バラ園も暑さのせいか
バラさん達がヘタレ気味……の中で、
どこか涼し気な一輪。
プレートの名は「ノヴァーリス」。
ドイツ・ロマン派の詩人と同じ名前。



帰宅して検索したら、
「ノヴァーリス」とは最近登場した
丈夫で育てやすい「青バラ」の新種なのだとか。

そっか、酷暑でもシャンと咲いてました……
クールビューティなタフネスさん。
夕ぐれ時にほんわか薄紫っぽく見えたけど、
夢の「青い薔薇」だったとは……

あ、それでノヴァーリス。
幻想小説「青い花」の著者にちなんでの命名。
淡い夢にも似た色合い、あとから
「あ、あれが青い花……」
って気づく余韻が、
ノヴァーリスの作風にどこか似ているかな。



なんとなく、散歩に出かけて良かったかも……
(*^-^*)



 

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TITLE: 千の顔をもつ英雄

CATEGORY: 読書メモ DATE: 02/07/2016 13:37:10


「千の顔をもつ英雄 新訳版(上)(下)」
ジョーゼフ・キャンベル
倉田真木・斎藤静代・関根光宏 訳
(ハヤカワ文庫 2015.12.25発行 2016.1.15二刷)

千種駅そばの「ちくさ正文館」で平積みされているのを目撃!
うをを~!ハヤカワ文庫から出てる。
速攻でひっつかんでレジへ直行。
うをを~!1冊740円、安い!
うをを~!文庫本だよ、軽い!
うをを~ん!
わおお~ん!

パラパラとめくってみる。
目にとまる箇所を読んでみる。
お・お……お?
もう一度パラパラとめくってみる。
目にとまる箇所をよんでみる。
お……おや?

なんか、違う?
なんも覚えてない……
見知らぬ場所の地図を眺めてるみたい。
なんか、違う?
よくよく見たら、
「新訳」って銘打ってある。
あ、訳が違うのか……そうか。

学生の頃に、大学の図書館で読みふけった
「千の顔をもつ英雄」は、
なんというか、こう、もっとゴツゴツした
学者さんっぽい雰囲気の文体で、
地図を頼りに洞窟探検するような、
おじいちゃんに教え諭されているような、
滋味あふるる不思議なオーラ漂わせてたっけ?
書物そのものの作りもガッシリ学術書だった。
この原文の
"THE HERO WITH A THOUSAND FACES" (1949)
が、
まさかあのジョージ・ルーカスに影響を与えて
「スター・ウォーズ」シリーズのシナリオの骨格になった、
とは学生時代には思い及びもしなかったが……
一度読んだ者には、
確実に「神話的ストーリー」の鋳型を刻印する、
そんな「熱い本」であることは間違いない。
こうして出会うのは学生時代以来……なつかしい。
発行されて1カ月もたたずに二刷されている。
良い本だ、売れてほしい。
たくさんの人の手に渡るといい。

「なんだか以前読んだときと印象がまったく違う。
翻訳が違っているせいかも」
と夫に問うたら、
「それは自分が変わったからだろ」
という返事。
そうかな……そうだろうか?
ほんとに翻訳が違うんですけど。
なんだかテンポよくて文章が短いんですけど。
短いけど、ぎっしり詰め込まれちゃってる感じ。
たとえばハムレットが
「生きるべきか死ぬべきか……それが問題だ」
と悩まし気に言うか、
「生か死か。それが問題だ」
ときっぱり言うかで、微妙に雰囲気が変わるよね。
翻訳の調子によって、全編の印象はかなり変わる。
「千の顔をもつ英雄 新訳版」は、
途切れぬ思索のあとをたどる学術書の魅力を捨て、
「神話世界の英雄の旅」携帯ガイドブックの役割を選んだ、
のかもしれない。
それでもいい。
こうして再び読めるなら。手元に置けるなら。
早川書房さん、ありがとう。

久しぶりに、眠くなって持っていられなくなるまで
本を読んだ。
今夜はここまで。
本を置いて眠る……そんな至福のときが戻ってきた。




 

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TITLE: 読んでいない本

CATEGORY: 読書メモ DATE: 01/18/2016 11:37:39


ファンタジーについて、雑感少々。

最近、全然あたらしく読んでないなぁ、
児童文学もファンタジーも絵本も。
誰からも読めと言われない状態だと、
活字を読まなくなる自分、という衝撃の事実……

学生の頃は、ゼミやサークルで読書会三昧。
児童文学・宮沢賢治・ファンタジー。
恩師や友人の影響で、なにかしら読んでた。

ことに今は亡き恩師の二上洋一先生からは、
20年以上にわたる文通で、
「これを読むといい。あれを読むといい」
とお教え頂いていたので、
文学・マンガなど
なんだか常にアンテナを張らねば、のココロモチになってた。

「福島子どもの本をひろめる会」では、
10年以上参加してすっかり日常と化した読書会で、
いつも課題図書と感想文の宿題に追われていた感じ。
読書会・講演会・広報紙づくり・読み聞かせ・図書ボランティアetc.
会話が「子育てと子どもの本」メインな集まりだから、
その空気にすっかり染まって、
頭の中の半分くらいは、「子どもの本」が占めてた。
次々読んでは、次々忘れていく……そんな感じ。

で、「子どもの本」を読まなくても、
いま平気で生きてるよ……自分。
わお、びっくり。
なんとなく軽くなったかも……ふわふわと。
いや、もともと軽いんだけれども。
いいのかな、これで?
とは、常に思っていたりする。

そして、ファンタジー……
「非日常が当たり前」になってしまった
5年前の「3・11」
ボランティアで出かける被災者支援センターさんの
広報紙づくりなんかも、話題は重くて
3・11以前と比べたら、同じ編集委員ボランティアでも、
「子どもの本」とは、ほとんど別世界。

子どもの本やファンタジーだって、
名作・傑作といわれる作品には、
重いテーマにがっちり取り組んでいるものが少なくないけれど。
でも、
「リアルタイムで進んでいる非日常なほどの災害への対応」
という静かな現実を前にして、
私自身の言葉をなくしてる感じはずっとある、のかな。
何を書いても、うそっぽくなるのでは?
という戸惑い。
一方で、震災避難から5年もたって、
以前とは違う生活にすっかり慣れてきて、
このまま穏やかに時が過ぎればいい、という願い。
凪いでいる状態……

こういうときに読んで、
ピターッとはまる作品ってあるかな?
もしあったなら読んでみたい。




 

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TITLE: 水木しげるの遠野物語

CATEGORY: 読書メモ DATE: 12/02/2015 01:00:37


「水木しげるの遠野物語」
原作・柳田國男
(小学館、2010.2.3 第1刷、2010.7.20 第5刷)

水木しげるさんの訃報を知り、読み返しました。

独特な水木ワールドでありながら、
東北の風土や語りの雰囲気がじんわり伝わってきて、
最終話、柳田國男との対話の場面がピターッとはまる……

漫画のワクを越えて、
「日本の妖怪っていうのは、
つまり西洋の妖精とまったく同じような存在なんだ」
という認識を、その多岐にわたる作品世界から、
いともすんなり腑に落ちさせてくれた、
私という読者にとっては、大きな大きな存在でした。

「人間ていうのは生まれ変わっているのかもわからん」
「いや、前世 遠野に存在していたのは確かなようだ」
と書かれていた水木サン。そうかもしれませんね。
ふしぎな世界の語り部として、
長い旅の幕をいったん閉じ、
どこかでヒトヤスミされているのかもしれません……



 

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TITLE: アンデルセン 「パラダイスの園」

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/29/2015 14:45:59


「この世でおきた出来事は、ひとつ残らず、
ここにあるたくさんのガラス板の上で、生きて動いているのだった。
こんなすてきな絵を灼きつけることができるのは、
時間をおいて他にないだろう。」
「それは、幸福にあふれた、何百万もの人間の顔だった。
みんなわらいながら、歌をうたっていた。
声という声が、みごとに溶けあって、ひとつの旋律をつくりあげていた。」
「広間のまんなかに、かたちのよい枝をたらした大きな木があった。
そして、大きいのから小さいのまで、
大小さまざまな金のリンゴがオレンジそっくりに、
緑の葉のあいだに実っている。
 アダムとイヴがその実を食べた、知恵の木というのは、これだったのだ。
どの葉からも、キラキラとかがやく赤い露がしたたっていた。
まるで、木が血の涙を流しているようだ。」
「『では、舟に乗りましょうか』と、妖精は言った。
『ゆらゆらする波の上で、なにかごちそうでもいかがですか。
舟はゆれますけれども、この場所から動くことはありません。
そして、世界の国ぐにが、わたくしたちの目の前を通りすぎていきますわ』」

(アンデルセン童話集 下 アンデルセン作・荒俣宏訳、文春文庫、
2012.7.10第1刷、「パラダイスの園」p.246~p.247より)

「パラダイスの園」を探し求めた王子がたどり着いたのは、
まるでバーチャルリアリティーの「集合知の展覧会場」。
スマホもパソコンも映画もない時代に、
アンデルセンが描いた星の彼方の天上世界は、
ハイテク機器を備えた21世紀の日常風景にどこか似ている。

童話作家に宿る、ヴィジョンの不思議。

たとえば天真爛漫な子ども達が描く夢には、
ときとして未来の光景が先取りされるのかもしれない。



ハリー・クラーク絵 アンデルセン童話集 下 (文春文庫) アンデルセン@amazonJP

 

 

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TITLE: 青い花

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/26/2015 17:50:45


夏休み中に読もう、と全体をザ~ッと流し読み。
特に面白いとウワサの、第1部第9章を丁寧めに読んでみた。

「青い花」
(ノヴァーリス作、青山隆夫訳、岩波文庫、1989.8.16第1刷、2007.6.25第15刷発行)

う~む?これは、つまり、こんな理解でいいのでしょうか?

「走れメロス」や「羅生門」が国語の教科書に載っているので、それらを青春文学だと思っていたら、
いきなりアニメや漫画の「魔法騎士レイアース」を提示されました。
気がつくと「少女の夢は広大な宇宙」という、繊細な草食系メガネ講師によるたいそう知的なレクチャーが始まっていて……

文学の単位をとるため受講したら、おや?それは謎めいた「錬心術」の特別講義でした。ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。
この世界は美しい。必ず最後に愛は勝つ。予定調和のタペストリー。よみがえれ古代の詩、出でよ星座と鉱脈にしるされし約束の女神、召喚!

……わお、赤点。文学の単位おとしたわ……あかんですか?やっぱそんな理解じゃ……



 

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TITLE: ノヴァーリス 「青い花」

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/06/2015 15:44:19


「青い花」(ノヴァーリス作、青山隆夫訳、岩波文庫、
1989.8.16第1刷、2007.6.25第15刷発行)

ドイツ・ロマン派の詩人ノヴァーリスの小説。
震災前に、夫から「これ読んでみるといいよ」
「例のファンタジー読んでみたけど、ちょっと雰囲気が似てるから
と手渡されたので、枕元に置いて、毎晩少しずつ読んでいました。
ところが、すこし読むと安らかに眠くなり、本を置いて熟睡……
うん、私の書いた小説も眠くなるかもにゃ。

とても有名な本らしいのですが(あの松岡正剛サイトでも絶賛)
読破できなかったまま。
ああ、あれも同じ迷宮、フレイザーの「金枝篇」……入眠の儀式。

で、「青い花」。
最近、夫の本棚に見つけて、性懲りもなくまた枕元の一冊へと。

福島市で自室に置いてあったのは、
岩波文庫ではなくて、
刊行まもない「ちくま文庫のノヴァーリス全集(2)青い花」。
捨てるわけがないのだけれど、
「金枝篇」ともども、どこに行っちゃったかな、まだ見つからない。




 

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TITLE: 東條真人「タロット大事典」

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/06/2015 15:18:05


レンタル倉庫の段ボール箱から、東條真人さんの「タロット大事典」(国書刊行会 1994.8.10 初版第一刷) を発掘!
1995年のお誕生日に、夫から贈られた本です。やだ、もう20年も昔。

ライダーウェイト版タロットの解説本のわりにお高い(5000円近かったかな?)
オカルト色濃厚な装丁も意に介せず、気前よく裏表紙に「誕生日を祝って」のメッセージまで書き添えてくれたダンナ様には、今さら感謝。
ええ、今日に至るまで、私が私でいられたのは、あなた様のおかげ……(ボそっと)

この本を手元に置いて、カード並べをすると、ああとても落ち着くなぁ、と。
4年半ぶりに復活した「暇つぶし」。
これ、ミトラ教の紹介本にもなっていて、意外とガッチリ内容があるので愛用してました。

震災後に「神話雑記」的な内容を連想のままにメモしているとき、
ちょっと中東の神サマを検索すると、行きあたるのは東條真人さんのサイトばかり。
何者?ほんとに東大院卒の情報工学博士さんでしょうか。
すごいの?怪しいの?誰??

いちおう占いのテーマは、心に浮かべてます。
もちろん「書けん!どうしたら?」です。
不思議にそれっぽいカードが並びます……「あがくな、祈れ」ですかね……



 

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TITLE: レ・ミゼラブル

CATEGORY: 読書メモ DATE: 06/21/2015 23:29:24



 中日劇場で上演中のミュージカル「レ・ミゼラブル」を、夫と二人で観てきました。
 夫が原作の熱烈なファンで、私は一緒についていった程度のファンなのですが、とっても良い舞台でした。

 児童向けリライト「ああ無情」や、少女向けの「コゼット」、ジャン・ギャバン主演映画や、みなもと太郎のギャグマンガ版など、色々な作品から内容を見聞きしてきたストーリーですが、ビクトル・ユゴーの原作は未読のままです。
 夫は、原作を何度も読み返し、ミュージカルのCDも持っているという、かなりの入れ込みよう・・・私も、原作を読んでみようかな?

 今日観たミュージカルでは、ジャン・バルジャンも群像劇の人物の一人、といった印象。群像の中でも特に、貧しい少女エポニーヌの存在感が光ってました。

 予備知識なしに観劇して、あとでジャン・バルジャン役は「ヤン・ジュンモ」という韓国人の役者であると知り、驚きました。とても素敵でした。
 上品で優しいジャン・バルジャン、若い世代を守り支えようとする人類愛の持ち主、すごくピュアな温かいジャン・バルジャン像が伝わってきました。
 うん、こんな感じのジャンもありだな・・・いやもう、一度これ観ちゃったら、「ジャンはこうでなきゃ」って気がしてきました。

 外国人の役者さんが日本語で歌うことで、少し距離感のある、透明な心情が伝わるのかも……罪人であることを隠して生きるジャン・バルジャンの、少し距離を置いた深い優しさと響きあって、いい味を出しているように思いました。

 

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TITLE: 虎よ、虎よ!

CATEGORY: 読書メモ DATE: 05/02/2015 17:14:09




「虎よ、虎よ!」

(原題)TIGER! TIGER! (1956)
アルフレッド・ベスター 作
中田耕治 訳
ハヤカワ文庫 SF
1978.1.31 初版発行、1983.10.15 第9刷


有名な傑作SFということで、図書館で借りて読んでみました。

「おれの名前はガリー・フォイル
そして地球はおれの国
無限の宇宙に住んではいるが
やがては死こそわが宿命」

宇宙を漂泊するひとりの男、その脳裏に去来する童謡。
童謡で始まる、壮大な冒険活劇・復讐劇は、
長い緊迫した旅路の果て、
宇宙に漂う男の意識のまにまに、また童謡に回帰します。

「おれの名前はガリー・フォイル
そして地球がおれの国
無限の宇宙に住みなれて
わが赴くは星の群」


この童謡から伺えるとおり、無頼漢の活劇を、
宇宙を舞台に描くSF的なアイデアに満ちた作品です。
翻訳者の文学的センスの恩恵もあいまってか、
活劇の中に硬派な詩情がきらめくような、
絵になるビジョンが散りばめられています。
エンターテイメントでありながら、
文学的な実験作。
終盤は、タイポグラフィの渦巻く
現代詩のような表現を多用しています。

こうした20世紀半ばの海外SFの文学的な実験は、
後に続く日本のSF漫画やアニメの表現にも、
大きな影響を与えたにちがいありません。

たとえば、石ノ森章太郎「サイボーグ009」の
加速装置のアイデアは、
この傑作SFから得られたものだったのでしょうか。
石ノ森章太郎さんのSF漫画が好きで、
若い頃は貸本屋にせっせと通って読んだのですが、
可愛らしい少年少女を主役に据えながらも、
結末が無常感を漂わせていたり、
人類の進化や神について問いかけていたり。
そんな、ときには難解だった石ノ森SFワールドも、
「虎よ、虎よ!」のような実験作が祖型になっていたとすれば、
そうか、と腑に落ちるものがあります。

第一部の冒頭に配された詩の一節が、
「虎よ、虎よ!」という作品タイトルと世界観とに
よく響きあっていると思いました。

「虎よ!虎よ! ぬばたまの
夜の森に燦爛と燃え。
そはいかなる不死の手 はたは眼の
作りしや、汝がゆゆしき均斉を。」
       ウィリアム・ブレイク


たしかウィリアム・ブレイクは、
神話的なヴィジョンを幻視して
挿絵を描いたり詩を書いたりした、
18世紀イギリスの画家だったと記憶・・・SFが、
神話的なビジョンを文学的に発展させた
詩やファンタジーとも似通ったジャンルであることを
垣間見せてくれる海外のSF作品。

以前から「サイボーグ009」SFワールドは、
イギリスの近代詩人イェイツの作品世界と感触が似ている、と
なんとなく思っていたのですが・・・
さらにさかのぼって、ウィリアム・ブレイクの詩的ビジョンが、
海外SFの実験作を通じて、
日本の「漫画の王様・石ノ森章太郎」に
影響を与えていたとしたら、奥が深いです・・・


などなど、長々と書き散らしましたが・・・

アルフレッド・ベスター作「虎よ、虎よ!」の感想
純粋にひとこと、面白かった~!!

図書館の書庫から出してもらった、褐色のページの文庫本。
古びちゃいません、バリバリ現役です・・・

(by 黄金週間の暇人)



 

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TITLE: 絵本「ほげちゃん」

CATEGORY: 読書メモ DATE: 04/09/2015 12:15:40



絵本「ほげちゃん」

 作者 / やぎたみこ
 発行 / 偕成社 ( 2011年6月1刷 2011年12月5刷 )


 預かり保育の幼稚園バイトで、昨年度の読み聞かせ人気ナンバーワン絵本でした。
 年中組の女の子が、お迎え間際のわずかな時間に
「あ、かわいい。これ読んで~!」
と、本棚から見つけてきました。たしかに、とぼけた感じがかわいい表紙です。
 私自身、内容をまったく知らないで、なりゆきのままに読み聞かせ開始・・・
 集まってきた子ども達、数人。

 なかよし家族に、ある日なかま入りしたぬいぐるみの「ほげちゃん」。
 みんなにかわいがられて家族の人気者に・・・
 でも、家族がそろっておでかけした日、ふいに「ほげちゃん」がすっくと立ち上がり、やりたい放題、言いたい放題、大暴れ・・・

 ほのぼのとした作風からは予測のつかなかったワイルド展開!
 私自身ひきこまれたのですが、読み聞かせながらふと前をみると、キラキラ光る子ども達の瞳、瞳、瞳・・・

 読み終わると、いっせいに
「もう一回、読んで!」
のリクエスト。で、再読するとまた
「もう一回!」

 一回めの読み聞かせでは、しん、と固唾をのむように聞いていた子ども達。
 三回めあたりでは、もう爆笑の渦・・・
 その日以降の預かり保育では、「ほげちゃん」「ほげちゃん・・・」と幸せの呪文のようにうっとりつぶやく子ども達の姿。「ほげちゃんブーム」が続いたのでした。

 大暴れする「ほげちゃん」の姿は、日頃の子ども達のうっぷんを晴らしてくれ、やさしい結末もあいまって、心地よい共感を誘うのでしょう・・・
 「母の会 寄贈図書」というスタンプが押してありましたので、どこかの卒園児のおうちでも、大人気だったのですね。

 今年度の預かり保育では、子ども達といっしょに、どんな本に出会えるでしょう。
 とても楽しみです。

 

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TITLE: クラバート

CATEGORY: 読書メモ DATE: 02/22/2013 22:19:52




ドイツの児童文学作家
プロイスラー氏
の訃報。

「大どろぼうホッツェンプロッツ」
「ちいさい魔女」
そして
「クラバート」
……光と闇、夢と冒険の
ファンタジーをありがとう(>_<)。
御冥福をお祈り申し上げます。

「クラバート」は最高に好きな作品でした……
闇にからめとられそうな青年が、
夢の中で出会う美声の少女。
聖なる祭礼の夜、
青年は初めて現し身の少女に声をかけた。
青年の額には、
闇の下僕の印、逆さの五芒星が。
少女は何も言わず、泉に浸した布で、
青年の額の印をそっと拭いとった……
(*'-^)-☆なんて清らかな
不滅のボーイ・ミーツ・ア・ガール!




 

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TITLE: ―New art―

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/29/2012 07:34:41



そもそも藝術は、
蜘蛛の巣のやうに、香の空中にかかる、
柔かで生き生きと、音樂にゆれる。
(人生に浸潤する藝術は悲しい。)
その音樂は瞬間の緊張に死ぬる、生きる
暗示がこの生命だ。
藝術に美と夢の「探求」はない、
(なぜといふに、)
藝術は夢、美そのものに外ならない。
(私共は理想や問題や雑談やに疲れ切った。)
現實の黄昏に光る蛾一匹だ……
残忍な瞬間の餌食となって死なねばならない。
藝術は創像の驚異(さう私はいふ。)
衝動の金線に踊る、
光と影の小鬼(エルフ)
…… 藝術の美と悲劇はきらめき渡る。

   (野口米次郎 ―New art―より)




 

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TITLE: 笛(タゴール詩集より)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/16/2012 10:46:36



笛の音は
永遠なるものの
音色――
シヴァ神の
もつれ髪から
降下した
ガンガの流れが
大地の胸に
流れ落ちるように、
あるいはまた、
天国の子らが、
大地の埃で
天国ごっこをして遊ぼうと
この地上に降りてくるように。

道端に立ち
笛の音に 耳傾ければ、
ゆえもなく、心さわぐ。
その心の痛みを
ありふれた喜びや悲しみと
結びつけようとするが、
結びつかない。それは、
わたしの日常の
どんな笑いよりもかがやかしく、
日常のどんな涙よりも深いと、
わたしは思う。


(タゴール著作集 第ニ巻 詩集
  p.37 リピカ「笛」 森本達雄 訳 より。
 第三文明社、1984.3.30初版)

 

amazon.co.jp/タゴール著作集-第2巻-詩集2-タゴール

 

 

 

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TITLE: 石の心

CATEGORY: 読書メモ DATE: 06/03/2011 15:50:07

その大理石の花は、永久に萎えることなく、
また…月に色付けされた潮に抱かれながら、
石格子に閉じ込められた石の心で、
自分らを彫りあげた職人を あざけるのです。

沈んだライオネス(妖精詩集 W.デ.ラ.メア 荒俣宏訳
ちくま文庫 1988.5.31 第一刷発行)より

「幼な心の詩人」デ.ラ.メアが、
海底に沈んだ伝説の都を謳った詩の一節…
石の彫刻の花が、石の心で、永久に海底で咲く…
寂しく冷たい光景が、胸に刺さりました。

『妖精詩集』=
3月に福島市から名古屋へ避難したときに、
唯一カバンに入れた本…
ってことは、一番の愛読書…になるのかな。

読むたびに印象が変わり、
折々に心に響く言葉が見つかります。

俳句に近い世界かもしれない…

石格子に閉じ込められた
石の心で、
あざけるのです。

あざけられているのは、人の営み…
無責任で無益な政争などより、
早く、放射能汚染から多くの子ども達を
逃がして欲しい。
子ども達の心に、
石の格子で閉ざされた、
石の花がひっそりと咲く前に…



 

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TITLE: 鉱夫が王子であることの意味

CATEGORY: 読書メモ DATE: 02/14/2011 02:19:42





「深いところで働くことの得意な人は、
 高いところを理解するのもはやいものです。
 なぜなら、深みと高みは、本質においては、
 おなじひとつのものだからです。

 鉱山は山の地面の下にあり、
 カーディは
 その中の道をよく知っていて、
 自分がいまどこにいるかを
 割り出すことができましたから、
 こうして王さまの館にはいりこんでも、
 自分の行く道を見つけることができました。」

  (『カーディとお姫さまの物語』 マクドナルド作、脇明子訳
    岩波少年文庫 1987.3.10 第2刷発行)p.31 より引用

美しく象徴的なファンタジーを支えているのは、
すっきり筋のとおったマクドナルドの語り口・・・
不思議な世界を描きながらも、
読者をすんなりと納得させてしまいます。

カーディ(コンラッド王子)って。

『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカーや
『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリック・・・
みたいな、現代のド派手なヒーローを
幾人も知った後に読んでなお、
そうとう「格好いい王子さま」だと思います。
ジョージ・マクドナルド・・・19世紀後半の物語作家。
語り口は紳士で、ときにはお説教まじりなのに、
案外、斬新なエンターティナーだったんだ、
ヤラレタ。
子どもの頃から魅かれていたけれど、
大人になった今の方が、ボディブローのように
ファンタジーの魔法が、じわじわ効いてくる・・・




 

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TITLE: 『カーディとお姫さまの物語』G.マクドナルド

CATEGORY: 読書メモ DATE: 02/12/2011 14:11:20





『カーディとお姫さまの物語』

(ジョージ・マクドナルド作 脇 明子訳 岩波少年文庫

 1986年11月13日  第1刷発行
 1987年3月10日   第2刷発行)

『お姫さまとゴブリン』の続編ファンタジー。

作者のジョージ・マクドナルドは、スコットランド生まれ。
ルイス・キャロルらとともに、19世紀後半、
イギリス児童文学の黄金期を築いた作家のひとり。
『北風のうしろの国』『黄金の鍵』などの作品がある。

コボルト(ゴブリン)がらみで、ふと再読してみたくなり、
書棚を探したけれども、『お姫さまとゴブリン』が見つからず・・・
『カーディとお姫さま』が出てきたので、
「まずこちらから」と、読み始めました・・・続編なので、
お姫さまとカーディの、「ゴブリン退治」を描いた前編の
おぼろげな記憶を頼りに、読み進めたのはもちろんですが、
前編を知らなくても、これはこれで
独立して読める内容なのかも・・・

というのは、脇明子さんのあとがきにも、

「ふつうの続編だと思って読むと、とまどってしまうところが
少なくないかもしれません」

とあり、
物語の調子が、前編『お姫さまとゴブリンの物語』に比べて、
そうとう暗く、結末も悲観的だと述べられているからです。

けれども、暗さも魅力のひとつであることは、確かでしょう・・・
マクドナルドのファンタジー(北風のうしろの国、黄金の鍵 etc.)
の共通した特徴として、
「魂の幸福を、夢幻的な彼岸の世界に求める」
「現世の生を、魂の浄化のための、修業の通過地点とみなす」
ストイックで神秘的な宗教性が目立つのですが、
『カーディとお姫さまの物語』にも、同じ傾向があらわれています。
むしろマクドナルドの本領発揮、といった作品ではないでしょうか。

冒険物語の主人公としての「カーディ」少年は、
性格は温厚で言葉も優しいのですが、その描かれ方には、
ダーク・ヒーローの面影があり、むしろ、その暗い部分が
とても魅力的です。

王家の血統でありながら、貧しい鉱夫の息子として育ち、
王とアイリーン姫の危機を救う使命を帯びて、都へ旅立つ少年・・・
馬には乗らずツルハシをかつぎ、
おともには奇怪な姿の怪物たちを、50匹も連れています。
抗夫として育ったカーディの活躍は、大胆不敵で荒っぽく、
少年らしい知恵や茶目っ気に満ちています。
これは、一種の「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」であり、
「悪の勢力に呑みこまれそうになっている『光の姫』を、
心優しき『闇の王子』が救出し、結婚する物語」
であるようにも思われます・・・

結末は・・・(ネタバレ↓)

カーディが、抗夫であったことから、
王都の地盤が金鉱で出来ていることを発見し、
善政の礎を築く一方で、
それが大きな災いの種となります。
善王カーディが世を去ると、都の人々は悪政と欲望に染まり、
黄金を得るために、地盤を掘り崩し、ついには
城もろとも、都が一瞬にして大崩壊、あとに残るのは
荒野ばかり・・・

カーディが、ダーク・ヒーロー的な主人公であったことから、
ダークな結末も、作品のトーンとしては一貫している・・・
と、作者マクドナルドの宗教的・象徴的な美意識を、
物語構成の完成度からも、支持したい一方で、
訳者の脇明子さんの嘆き(あとがき)も、おおいに理解できます。

たとえば、『ナルニア国物語』の結末が
「死と王国の崩壊だった」ときの衝撃は、
私自身にも身に覚えがある・・・作者のC.S.ルイスを
思いっきり否定したくなりましたっけ・・・
「王国崩壊」は、アーサー王のキャメロット以来、
イギリスの伝統芸なのでしょうか? 
「至高の王者」の到来を希求する、その願いの強さゆえに?

暗い結末とはいえ、王国崩壊は「後日譚」的な扱いですから、
カーディとアイリーン姫の「愛と冒険」の物語を、おおいに
楽しめることに間違いはありません。
写真は、岩波少年文庫。
脇明子さんの訳は、美しいので大好きです。
挿絵やカバーのイラストは、『地球へ』の竹宮恵子さん・・・
古典ファンタジーと現代漫画家の、ちょっと意外な組み合わせです。





 

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TITLE: 『スキャット Scat』 (カール・ハイアセン著)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 01/27/2011 13:21:40

『スキャット Scat』

(カール・ハイアセン・著 千葉茂樹・訳 
  理論社  2010.8 第1刷発行)

アメリカの現代児童文学。フロリダを舞台に、
絶滅危惧種のフロリダ・パンサーの赤ちゃんをめぐっての騒動を、
少年ニック(14歳)を主人公に描いた、群像劇。

校外学習の日に、湿原で起きた火事。そこで行方不明になったのは、
魔女と恐れられている生物の教師、スターチ先生。放火の容疑が、
クラス一番の問題児・ドゥエーンにかけられて・・・

謎の湿原火事と、スターチ先生の失踪をつなぐ手がかりを求め、
ニックとガールフレンドのマータは、いつしか
フロリダ・パンサー保護をめぐる攻防戦の渦中へと・・・
ドゥエーンは、ほんとに粗暴なだけの非行少年なの?
スターチ先生は、今どこで何をしているの?
ギンギンに熱い自然愛護活動家VS石油会社の腹黒い陰謀、
さあ、正義の女神は、誰に微笑む?

謎解きと冒険を楽しみながらも、現代のアメリカ社会を
鏡のように映し出す描写や設定が、随所で目を引きます。
ニックの父は、イラク派兵で右腕を失って帰国療養。
ニックの母は、刑務所の看守。
堅実な家族にも、戦争や監獄社会(アメリカは貧困対策を
福祉から厳罰主義に切り替え、刑務所を産業化してきた国)
の影響が、くっきり・・・

善良で腰の低い雇われ校長に、変わり者の教師陣。
スクールバス通学、少女でも銃を扱うお国柄。
家庭崩壊もなんのその、道楽にふける富裕層・・・

軽快なテンポの文体で、気楽に読み進むうちに
次第に重層的な物語が骨格をあらわして、
無責任な大人・自然への乱開発に怒りを暴発させていた
少年ドゥエーンがクローズ・アップされてきます。
自然のみを友としていた非行少年が、
ニックという仲間や、スターチ先生という師を得て、
人の絆への信頼を取り戻し、未来への希望をつかむ物語には
読者を魅了するエネルギーがあふれています。

作者のカール・ハイアセンは、フロリダっ子。ジャーナリストから
ミステリー作家へと転身した経歴の持ち主だそうです。
子ども向けの読み物としては、『HOOT』(2002)、
『FLUSH』(2005)で、アメリカの子ども達の人気を獲得。
本作『スキャット Scat』(2009)は、堂々3作目の児童文学だとか。



 

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TITLE: 『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』

CATEGORY: 読書メモ DATE: 01/07/2011 17:13:20

卯年にちなんで、うさぎの登場する物語を再読しよう、と
手に取ったら、もう止まらない面白さ・・・↓

『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち(上)(下)』
  (リチャード・アダムズ作 神宮輝夫訳 
      昭和50年・初版 昭和55年・第5刷  評論社)

生まれ育った土地を離れ、安息の地を求め旅する、
若うさぎ達の冒険行。
未来を予言するファイバー、その兄ヘイズルに導かれて、
未知の危険にさらされながらも、知恵と勇気、厚い友情・信頼とで
試練に打ち勝ち、繁栄の礎をきずく個性豊かな仲間たち・・・

すべてが「うさぎ目線」で描かれた情景、
そして劇中劇として語られる「うさぎ族に伝わる神話」、
叙事詩的な魅力に包まれた物語の中で、
いつしか読者もまた、うさぎの目線で、
うさぎの英雄誕生に立ち会うことに・・・

「友情・努力・勝利」の要素をすべて満たし、
子どもの心も十分につかむ内容。でも、単にそれだけじゃない・・・
子どもの頃に読んで夢中になり、
大人になって再読し、やっぱり夢中になれる物語なんて、
そうそう数あるわけじゃない。

私にとってのファンタジーは、
ウォーターシップ・ダウンをめぐる冒険行を描いた、
「こんな世界だった」・・・のかもしれない。
ハリー・ポッターやアニメ・ゲームが大ブームを巻き起こす以前の、
素朴でワクワクして、それでいて深遠な、物語の世界・・・

学生の頃、東京・吉祥寺の映画館で
アニメ・オールナイト上映の一本に
「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」が入っていた。
一晩のうちに
「銀河鉄道の夜」「白雪姫」「プリデイン物語」
「ウォーターシップ・ダウン・・・」と、
続けざまにアニメ映画を観て、始発電車でアパートにたどり着き
バタンQ・・・女の子ひとりで(汗)

よくもまあ無茶をする体力と
馬鹿さ加減とがあったものだなあ・・・今なら無理かも(笑)

あの頃さがしていたものを、今、見つけられているかな?
描きたいと思っていたものを、描けているかな?

まだまだ全然・・・



 

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TITLE: 世界の伝記NEXT 『宮沢賢治』 (集英社版・学習漫画)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 12/21/2010 13:08:25

うわ~い、来たー!! という一冊。

集英社版・学習漫画 世界の伝記NEXT
『銀河鉄道で星空を旅したファンタジー作家 宮沢賢治』
             (2010.10.10 第1刷 集英社発行)

シナリオ「三上修平」、解説「齋藤孝」
そして
漫画は「柊ゆたか」さん、編集は「ウェルテ」。

「柊ゆたか」さん&「ウェルテ」といえば、
(拙著 『黎明のほのかな翼』 の出版で、私もお世話になった)
新進気鋭の絵描きさん&出版社さん!

賢治だ~☆
銀河鉄道だ~☆
学習漫画だ~☆

図書ボランティアの予算で、是非、我が子の小学校にも一冊!
というオススメ本が、来た~♪ (^。^)/~☆

内容がとても良いです。クリスマスプレゼントにぴったり、かも。
(自分に御縁があった方々の仕事だから、というわけでは
けっしてなく・・・)まず第一に、
「風の又三郎」を、ナビゲーターとして登場させ
「かれは童話の国からの転校生でした。」
と紹介するシナリオが、秀逸・・・

銀河鉄道とアインシュタインを絡ませたり、
ジョバンニの切符の文字が、相対性理論の公式だったり・・・
本書独自の工夫が凝らされ、
大きな広がりを持つ賢治のファンタジー世界の特徴を、
簡潔な学習マンガの中でよく捉えています。
そして、
挫折も多かったけれども、夢を抱き続けた賢治の人生と
時を経て21世紀にますます輝く作品群とを
子ども達にも親しみやすく、共感を込めて紹介してあります。

表紙絵の賢治さんの、キラキラした瞳と「ガサガサした手」。
「柊ゆたか」さんの、ちょっと萌え混じりな絵が、新鮮・・・

賢治童話って。
まるで風の又三郎が「チビ009」で、双子の星が「猫耳」だったり
偶然、セロ弾きのゴーシュが「大人になった吹雪士郎くん」で
ジョバンニが「バンダナをはずした内気な円堂守」に似ていようと。
たとえ何が起きようとも、賢治童話なんだなぁ・・・(奥が深い)

え?・・・と、とにもかくにも。

教科書で勉強するのとは、一味も二味も違う
いきいきと魅力的な宮沢賢治像を、この本と出会った子ども達が
思い描いてくれそうな・・・そんな気がする一冊です。



 

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TITLE: 全天周プラネタリウム『銀河鉄道の夜』  KAGAYA作

CATEGORY: 読書メモ DATE: 12/20/2010 14:12:07

福島市 子どもの夢を育む施設「こむこむ」
2010・2011冬
(11月~2月) プラネタリウムで投影中

今年度もこの作品が投影されて、とてもうれしい!
全天周プラネタリウム・CGファインアート

『銀河鉄道の夜』 制作:KAGAYA

2・3年前に「こむこむ」で、制作者カガヤさんのアート展と
講演会が行われて以来、定番プログラムとして人気な模様・・・

講演会でのカガヤさんは、茶目っ気と情熱をまとった夢追い人。

南極に日蝕を観に行ったり
(南極の氷で、かき氷を食べるという夢をかなえたり)
福島県浄土平でも、少年の頃から天体観測していたり
(賢治の銀河鉄道の世界が、子どもの頃から大好きだったり)

CG作品として銀河鉄道の世界を再現するために
愛知県「明治村」のミニSL(蒸気機関車)に
何度も何度も乗って、運転手さんに
「物好きだね~」と声をかけられたことなど・・・

どんなに星空や賢治の『銀河鉄道の夜』が大好きで、
プラネタリウム作品として完成させたかったか、その想いが
ひしひしと伝わるお話をして下さり、
「作品も素敵だけど、制作者も素敵だ☆講演を聴いてよかった」
と、鮮やかな印象を残したのでした。

初めて観たときから、この作品のとりこになった私は、
もう15回近く(7回目以降、数えなくなった・・・)
プラネタリウムで鑑賞。
今年も観ました、この冬も、やっぱり何度か通うつもり・・・
(一回300円♪すごく有難い・・・こむこむ、ありがとう)

何度みても、ジ~ンとくる。
何度みても、幸せを感じる・・・こんな世界に出会えてよかった、
賢治ワールドが、こんな風に表現されて、素晴らしい技術と
子どものための施設に支えられて・・・賢治さんがもし
この美しい幻燈会を知ったなら、どんなに喜ぶだろうか・・・

カガヤさんの講演の後、サイン会の行列に並び、
「賢治の世界をこんなに美しく描いた作品に出会えた、
現代に生まれて良かった、と思います」
と、思わずお声をかけてしまいました。
すると、カガヤさんはニッコリ。
「ボクも現代に生まれて良かった、と思います。
 CG(コンピュータ・グラフィック)の技術があってこそ
 表現できた世界で、こうして多くの方に想いを伝えられるから」
と・・・

カガヤさんの弟である、加賀谷玲さんの音楽が、これまた
お兄さんのCGアートに見事に調和しています。
(25年以上前に発表された、細野晴臣さんの『銀河鉄道の夜』も
 とても魅力的ですが)

疲れたときや、童話モードに入れないとき(ふぅの世界、とか)
加賀谷玲さんの『銀河鉄道の夜』のCDを聴きます・・・
ガラスの鈴が鳴るような、
透明な風が吹きすぎるような、とても優しい音の世界。

コンピューターの描く美術や、奏でる音楽だって
美しいものは美しい・・・人の想いが感じられるならば。
賢治さんは、科学と芸術の融合した、こんな世界観を
まだ見ぬ未来に、夢見ていたのかもしれない・・・
夢と夢が反響しあって、新しい表現世界を拓いていく。

賢治さんは、「ひかりはたもち その電燈は失われ」
って書いていたっけ・・・



 

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TITLE: 『ハムレット』 

CATEGORY: 読書メモ DATE: 11/27/2010 00:00:00



『ハムレット』

(シェイクスピア 作
 福田恆存 訳
 新潮文庫
 昭和42年9月25日発行
 昭和60年5月15日 37刷)

・・・何千の命、何万の命をつぎこもうと、
この藁(わら)しべほどの問題、
とうてい解決できっこないのだ!
富み栄え、平和に倦(あ)きれば、
かならずこのような
腫物(はれもの)に
とりつかれる。
外からはなにも見えないが、
中はすっかり膿(う)みただれていて、
こうして人は命を落すのだ・・・

・・・二万のつわものが、
幻同然の名誉のために、まるで
自分のねぐらにでも急ぐように、
墓場に向って行進をつづけている。
その、やつらのねらう小っぽけな土地は、
あれだけの大軍を動かす余地もあるまい。
戦死者を埋める墓地にもなるまい・・・(ハムレット)

 (15・第4幕 第4場  p.132 より)

亡き父王の復讐のために、やがては命を落とす運命の王子。
引用したのは、故国デンマークを離れたハムレットが、
出陣する隣国ノルウェーの軍隊を、
行きずりの旅人の目で眺めたセリフです。
暗い結末に向かう自身の運命をも、自嘲気味に重ね合わせた
「無益な争いへの、強烈な皮肉」が、とても印象的です・・・

古典って面白い・・・音楽も文学もそうですが、
混沌とした現代を、照らしてくれるのは、積み重ねられてきた
先人の言葉や知恵、そこに込められた「想い」なのかもしれないナ
と、ちょっと真面目に考えたり。

イラストは、息子が6年前(幼稚園の頃)に描いた落書き、より。




ハムレット (新潮文庫) ウィリアム シェイクスピア@amazonJP

 

 

 

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TITLE: 妖精の騎馬行

CATEGORY: 読書メモ DATE: 10/03/2010 12:42:00

今朝は、一面の霧が信夫山を白く包み、冷たい空気が
秋の深まりを教えてくれました。
いつしか霧は晴れ、明るい青空が・・・

『ケルト妖精学』(井村君江 著 ちくま学芸文庫
           2003.11.10 第1刷発行)
によれば、(p.94~95)

イギリスでは、「ハロウィン前日(10月30日)の
夜から暁にかけ、一年に一度、自分の丘をひとめぐりする
妖精の騎馬行(フェアリーライド)」の伝説があるそうです。

アーサー王が、カドベリーの丘のまわりを、大勢の従者と一緒に
馬に乗ってひとめぐり・・・
(そういえば、日本でも
平家の亡霊である武者や姫君の行列、の伝説が)

この「フェアリーライド」伝説を下敷きに書かれた詩↓(同書p.388)

  『騎士』 (W.ド・ラ・メア作)

 丘を越えていく
 騎士の音を聞いた
 月はけざやかに照り
 夜は静かだった
 騎士の兜は銀で
 その顔は蒼く
 騎士の乗る馬は
 象牙だった

  『ベン・バルベンの下』 (W.B.イエイツ)(同書p.91~95)
    (略)
 大理石はいらない。きまり文句もいらない。
 ちかくから切り出した石灰岩に、
 彼の求めによって次の言葉が刻まれる。
   生も、死も、
   冷たく見ながせ、
   騎馬の男よ、行け!

ケルト的世界観では、人の魂は輪廻転生し、
永遠の生(死)をめぐり続けるのだ、とか・・・
イエイツの詩(上記)には、こんなフレーズも。

  ベッドで死のうと
  ライフル銃で撃ち殺されようと同じこと、
  恐ろしいといっても、たかだか、
  一時のあいだ親しい者と別れるだけだ。

荒涼とした無常観の中に、生への情熱を秘めた詩句。
古代ヨーロッパ文明(ケルト)を再評価し、自ら創作し、
アイルランド文芸復興運動の旗手であったイエイツですが、
その墓碑に刻まれた言葉が

  生も、死も、
  冷たく見ながせ、
  騎馬の男よ、行け!

という、死の前年に記した自身の詩の、ラスト三行、というのも
「最後のロマン主義者」を名乗った詩人にふさわしく感じます。

「妖精の騎馬行」は、丘をめぐり、やがて夜空を駆けていきます。
詩の墓標・・・
光瀬龍がSF作品の中で描いたモチーフ、「星の墓標」にも
どこか似通った感性であるような・・・

ケルトの伝承には、男たちの不思議な航海が描かれ、
「異界への冒険譚」が、大きなテーマの一つとなっています。
(異界は、女神の島で、移り変わりの止んだ永遠の時の中にある)
「星の海の航海者」を描く、光瀬龍のSFとは
元来、通底する部分が、とても多いのかもしれません。



 

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TITLE: たそがれに還る (光瀬 龍 作)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 10/01/2010 20:56:17

涼しく冴えた空気、虫の声に癒されながら
SFの文庫本を読みふける・・・
金色の至福の時間。

読み始めたら止まらない・・・

『たそがれに還る』
(光瀬龍 作  ハヤカワ文庫 
        昭和48年3月15日 発行  昭和60年4月15日 9刷)

この作品が発表されたのは、1964年。
描かれてから、まもなく半世紀が過ぎようとしているのですが・・・
30世紀から40世紀に渡る人類の未来、「太陽系開拓史」を
ずっしりと構築して、少しも色褪せていません。

初めて読んだのは、10代の終わり頃。
クールな文体、壮絶な主人公の生き様に圧倒され、
その哀切な読後感とあいまって
忘れがたい一冊ではあったものの、
読み返すこともなく、ダンボール箱にひっそりと・・・

今回、ガンダム00劇場版のストーリーを、
ネットで拾い読みするうちに、
「発想そのものが、きちんとSF」
「エンターティメントというより、むしろ
舞台を宇宙に設けたハードボイルド文学」である
光瀬龍の、「硬質な宇宙」が、
なんともいえず懐かしくなって、再読しました。

(小説で手元にあるのは、『たそがれに還る』のみ、
 あとは萩尾望都コミカライズの、『百億の昼と千億の夜』を
 持っているだけ・・・熱心な読者とはいえないのですが)

「スーパー・コンピュータ」とは書かず
「巨大電子頭脳」と書く辺りが、
昭和の時代を感じさせたり・・・けれども
一からきちんと文章によって構築された世界は、
古びていないどころか
哀愁や無常感をにじませ、その透徹した詩情に
現代の若手作家にはない、厳しさを感じました。

大きな力で日常が破壊される光景を、目の当たりにした
作者の体験・・・空襲で燃え落ちる街の記憶、が
その原点に横たわる「無常感」なのだ、と
巻末の作品解説にあり、なるほどそうだったのか・・・ 

と、若い頃には読み落としていた、
レクイエム的な詩情の深さに対して、
あらためて心を打たれました。

廃墟、炎上、死・・・そうした光景が繰り返し描かれる中、
懸命に活路を見出そうと、死力をふりしぼる人々の群像劇。
そして、宇宙から迫る未知の脅威に対して、
人類の未来を託された、孤独な開拓者たち。
「リーダー」という宿命を背負った者の
人知れぬ、魂の軌跡・・・

主人公が密かに想いを寄せる女性が、
宇宙空間に設置した探査装置の「鍵(かぎ)」
だったという、悲恋物語。そして
人々の願いと努力も虚しく、
稼働と同時に爆発、宇宙のガス星雲となって
消滅する探査装置・・・

「星の墓標」によって刻まれた宇宙史。
SF的なロマンの香りという言葉だけでは言い尽くせない、
「人類の明日への祈り」がにじむ・・・切ない結末です。

そして不思議なことに、
どんなに絶望が深くても、なお
未来に立ち向かう勇気が伝わる結末、でもあったのでした・・・

(本書は入手が難しい絶版作品のようですので、
 ネタバレ的な内容も、あえて書いてみました m(_ _)m )




 

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TITLE: ソラリスの陽のもとに (スタニスワフ・レム作)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 09/28/2010 11:21:31



『ソラリスの
   陽のもとに』

(スタニスワフ・
      レム作 
 飯田規和 訳
 ハヤカワ文庫SF 
 1977.4.30発行 
 1989.7.30 18刷)

またもやイラストは、
ティエリア・アーデさん・・・
『ガンダム00』の
福島公開は、一ヵ月以上先なのに、
ネットのネタバレ映画評などから
すでに大まかなストーリーを知ってしまいました(笑)

「少年ド根性ロボストーリー・熱闘!ヴェーダ圏」なのかなあ・・・
という予想を(ちょっとナメテいたか)見事にハズされ、
賛否両論の結末を持つ、「未知との遭遇編」だった模様。

古典的ハードSFのテーマを、
人気アニメのキャラを使って描いた意欲作?
それとも悪趣味なアイデアの詰め込み???

怖いもの見たさも手伝って、一応映画館で観たいかな~
でも、公開日の10月30日までには、
相当量の情報が出回ってしまっていることでしょう(笑)

ガンダム00劇場版のレビューなど読むにつれ、
昔の文庫本を引っぱり出して、再読し始めたり・・・
(そんな同世代の方、他にもいないかな)
SFの知識や読書量が乏しく、ブラッドベリの名作SFすら
ろくろく読んでこなかった私ですが・・・
(これから読む楽しみ、っていう言い方も出来る)

『ソラリスの陽のもとに』 という
ポーランドの作家による異色作には、なぜか心惹かれ、
20年ほど前に購入して以来
お気に入り文庫本の棚に、ずっと並べてあります。

「惑星ソラリス」「ソラリス」というタイトルで
過去に2度映画化されている話題作・・・のはずですが、
原作はとても思索的で、静かなトーン。
『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キース作)にも似た
実験的な心理小説、といえば分かりやすいでしょうか。

作者スタニスワフ・レム自身の言葉によれば・・・

(略)その問題を、暴力によって、たとえば、未知の惑星を爆破する
というような方法によって解決しようとすることは無意味である。
それは単に現象の破壊であって、その「未知のもの」に遭遇した人間は、
かならずや、それを理解することに全力を傾けるであろう。
場合によっては、そのことにはすぐには成功しないかも知れないし、
さらに、場合によっては、多くの辛苦、犠牲、誤解、ことによって、
敗北さえも必要とするかも知れない。(略)(同書p.315~p.316)

「相互理解、その困難さ」という普遍的なテーマを、
奇妙で壮大な設定で描く、不可思議な人間臭さ・・・
「思考する海」との
コミュニケーション、その葛藤・断絶を描いて
人間の存在を根源から問いかける
「熱くてクール」な、SFの古典なのです・・・




 

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TITLE: 富安陽子さん講演会

CATEGORY: 読書メモ DATE: 09/27/2010 17:17:28

富安陽子さん講演会

『物語が生まれるとき(不思議への入口)』

 9月25日 午後1時~3時 福島県立図書館講堂 
  (福島子どもの本をひろめる会 30周年記念講演会)

〈富安陽子〉
大阪在住の児童文学作家(ファンタジーや童話の著作多数)
「ちいさな山神スズナ姫」
「ムジナ探偵局」
「ドングリ山のやまんばあさん」
「菜の子先生がやってきた」など人気シリーズを刊行。
質の良い、楽しい夢に満ちた作品世界を
多くの子ども読者に提供し続けている
現代児童文学の第一人者。

憧れの作家さんをお招きして、念願の
大型企画の講演会が無事開催されました~♪

・・・終わってみれば、
その内容がとにかく楽しかっただけに、
大人ばかりでなく、現役読者の小学生たちにも
聴いて欲しかった、と一抹の残念さも。
(当日は、ファンらしき10代の女の子とお母さんの親子連れが
一組来てくれていましたが)

まるでファンタジー世界から訪れた使者のような
富安陽子さん。
大きな瞳で長身、どこか少年っぽさの漂う魅力に、
大人の堅苦しい世界の境界が揺らぎ、
子ども時代の見方・感じ方が甦ってくる気がしました。

ホワイトボードにイラストを、すらすら~っ。
(やまんば母さん、バルタン星人、たてがみを刈られたライオン等
すごいスピードでペンを動かし、話し続けながら次々と・・・)

子育ての体験や、童話作家になる夢を抱き続けた子ども時代。
その夢を応援してくれた愉快な家族の思い出など・・・
ときに大阪弁で笑わせ、ふとしんみりさせ、
作品の文体そのままの平易でよどみない語り口、
優しい声で、2時間たっぷり語って下さいました。

サン・テクジュペリの『星の王子さま』の冒頭に

「おとなは、だれも、はじめは子どもだった。
(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。)」

という、あまりにも有名な言葉がありますが、
富安陽子さんは、その「いくらもいない」大人の一人。
資質と職業との幸福なマッチングにおいて
天が選んだ人なのだと思いました。
「子どもの不思議な物語」を描くために生まれてきた・・・
きっと、そんな作家さんなのです。

講演会終了後、タクシー係だったので車中でお話を伺ったり、
茶話会でケーキを食べながら、隣の席で(^v^)
創作秘話を伺ったり・・・
(もう、ちゃっかり隣に座らせて頂きました。
ちょっとドキドキしましたが
背中を押して下さった「ひろめる会」の先輩方、
本当にありがとうございました。m(_ _)m )

こんな幸せな一日があるものだな~と感謝しつつ。

富安さんがケーキを食べながら
傍らの肩掛けバッグから、取り出して見せて下さった
なめらかな文字で埋まった、手書きの原稿用紙。
「清書稿ですか?」と思わず尋ねると
「そういえば、書き直しは、ほとんどしないんです。
書くときには、頭の中に出来上がっている状態なので・・・」
うわ~っ、モーツァルトと同じだ~っ!!

職業作家の「すごさ」を感じた一日でもありました。




 

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TITLE: ホワイト・グース  (ターシャ・テューダー作)

CATEGORY: 読書メモ DATE: 09/22/2010 12:50:39

以前から買おうか迷っていた絵本、やっぱり買いました。

『ホワイト・グース』
 (ターシャ・テューダー作 ないとうりえこ訳
   メディアファクトリー 2005.11.9 第二刷発行)

・・・月夜の、夜と夜明けのあいま、雁が、さおになって、
かぎになって飛ぶときに、ふしぎが起きると、古い言い伝えに
あります・・・  (上記絵本より引用)

終わりのページで結ばれた言葉どおり、
白い雁の化身である少女に、
「一緒に異界へ飛び去ろう」と誘われ、
それを断り、地上に残った少年ロビンの
ひとときの体験を描いた絵本です。

素朴な絵なのに、冷たい大気や月光、妖精の気配が
伝わってきて、手元に置きたい魅力に捉えられました。
白い雁の少女が、愛らしさの中に
この世のものならぬ不気味さ・妖気を漂わせているところが
忘れがたい魅力の大きな理由かもしれません。
(けっして万人受けする内容とは思わないけれども)

自ら家畜を育て、日常に必要な品を手作りしていた
ターシャだからこそ、
飼い慣らされていない「野生の雁」の、黒い目に宿る
「異界」を感じ取り、描くことが出来たのでしょうか。
月光に「妖精」の息吹を感じ取ることも・・・

中高生に古典を教えていらっしゃる方から、
たまたま『百人一首』の再読をすすめられ、
ふと手にしたカルタの中に

「あ、これはターシャの『ホワイト・グース』と
同じ感性で描かれた世界・・・」
と思われた歌が、二首ありました。

「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 
       白きを見れば 夜ぞふけにける 
                      中納言家持」
「秋風に たなびく雲の たえ間より
      もれいずる月の かげのさやけさ
                      左京大夫顕輔」

月光や星の光の不思議な力・・・
感じ取るためには、現代人の生活は
人工の明かりで、
便利に照らされすぎているに違いありません。

ターシャの生き方に敬意を覚えつつ
「妖精を感じとれる人は、天に選ばれた人なのかも」
と、ただ遠い憧れを覚えるのみ・・・

・・・ところで、ロビンのように、とがり耳をもつ子は、
ないはずのものまで見てしまうのだ、という人がいます。
 もしも、あなたもまたとがり耳をもつ子なら、
妖精の笑い声を耳にし、妖精の顔に見入ることが、
あるかもしれません・・・(『ホワイト・グース』より)

私には生まれつき「とがり耳」がありません・・・残念ながら。
そういえば、今夜は、中秋の名月です。



 

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TITLE: 学校の怪談あれこれ

CATEGORY: 読書メモ DATE: 08/15/2010 12:07:17

夏といえば怪談。

息子の通う小学校のPTA広報部で、好きな本のアンケートを
子ども達に行いました。
その結果・・・(今から3年前、2007年のデータですが)↓

小学3・4・5年生に、『学校の怪談』が人気で、
中でも3年生では、「好きな本」「好きなマンガ」も1位が、
『学校の怪談』でした。
そこで、少し調べてみましたら・・・

『学校の怪談』は、複数の出版社から読み物・マンガとして
出版されており、その中心になっているのが、
「日本民話の会」の仕事・・・つまり、『学校の怪談』とは
幾人もの著者による短編集のことでした。

アイルランドのケルト妖精物語も、同様に
伝承の語り部を訪ねて、その口承に耳傾け、書き記す、
という方法で保存されていますが、
日本にも、こんなに大きな仕事の成果があって、怪談が保存され、
妖怪たちが命脈を保っている、ということには、
大きな驚きと、敬意を覚えずにはいられませんでした。

特に『学校の怪談』について、
民俗学的論考という形で、しっかりと足場を築いた「常光徹」さん。
そして、豊かな感性と鉄の意志・『現代民話考』シリーズの
「松谷みよ子」さん。もし、この両者のような
「立役者」が存在しなかったなら・・・
息子の小学校のアンケート結果からうかがえるような、
現代っ子の『学校の怪談』読み物人気、という現在は、
多分あり得なかったことでしょう。

「学校とは、妖怪たちの好んでひそむ場所であり、
そもそも学校の立地は、刑場跡、墓地のそばなど(用地確保のため)
人々から忌避される場所であったことも多い」と、
常光徹さんは、その著書『学校の怪談』の中で、述べておられます。

学校が、兵舎や仮宿泊所、避難場所の役割を果たしてきたことで
「戦争の記憶」や「大きな災害の記憶」と結びつく場合もあり、
『学校の怪談』が、そうした記憶を、次世代へと伝える面も・・・

高度経済成長期を経て、都市化・核家族化が進む中、
日本の「学校」は、「学校化社会」という言葉が示すように、
村外れどころか、住宅街の中心に位置するようになりました。
まず両親が子どもの通う「評判の良い学校」を選択し、
その近くに居を構えるなど「教育環境」を重視する
「転勤族」さえ出現した、現代の学校事情です。

このような変貌をとげた「学校」に潜んでいる妖怪達は、
いったいどのような姿をし、面影を宿していることでしょうね。

そういえば、福島市信夫山のふもと、狐塚あたりは
市街地の真ん中で、「学校密集地」ですが、
もとは刑務所があった場所でした。
この2年前には刑務所を仮釈放された人のための
「自立更生促進センター」という、不思議な更生施設が
いつのまにか建設され、市民の大きな反対運動の中、
今週お盆明けには、二人の仮釈放者を入所させ
いよいよ運用が始まると、全国ニュースでも報道されています。

子ども手当などより、子ども達が遠足やフィールドワークで
のびのびと遊べる、貴重な信夫山の環境を大切にしてほしいな~
と願いながら、経過を見守ってきたのですが。

なんだか怪しげな雲行き・・・
更生センター周辺学校の、トイレの花子さんや
信夫山のゴンボ狐も、子ども達とともに、
大人社会の行く末を心配そうに見守っているかもしれません。




 

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