エ ブ リ デ イ ・ マ ジ ッ ク         星 の 旅 行 か ば ん

 
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− 星 の 旅 行 か ば ん −

 

 

 

           

 林のはずれ、よつゆにぬれた草むらに、雨にうたれてカラだけのこった銀杏がひとつ。

 ひそひそ話すクモの子が二ひき。

「こんな真夜中、いそいでどこにいくの」

 一ぴきのクモの子が、足をのばしてうす茶色のカラに、ひょいとのぼりました。

「いっしょにおいで、見せてあげる」

 もう一ぴきがあわててヨイショとのぼると、パチンと音をたて、銀杏のまるいカラがとじました。

 二ひきのクモの子をのせ、銀杏はゆりかごみたいにフワリ。草むらをするするすべり出しました。銀杏は、じょうぶなクモの糸であんだレールに、つりさがっていたのです。

「ね、これモノレールだよ。外をごらん」

 銀杏のなめらかなカラには、まるい窓がありました。くらい窓のむこうで、よつゆのしずくをキラキラくっつけたクモの糸は、星あかりをつないだレールのように、ずうっと先までのびていました。

 

 

 月がてらす海べに、中がからっぽの二まい貝がポツン。

 よこ歩きのカニの子が二ひき。

「こんな真夜中、いそいでどこにいくの」

 一ぴきのカニが、はねをとじかけたチョウのような貝がらのすきまに、ツツッとすべりこみました。

「いっしょにおいで、聞かせてあげる」

 もう一ぴきがあわててハサミをよこにしてすべりこむと、パチンとりょうがわから、白い貝がらがとじました。

 二ひきのカニの子をのせ、白い貝がらは舟のようにプカリ。ざざーっと寄せてきた波といっしょに海に出ました。

 白い貝がらは、チョウが空をまうように、プカプカ潮にゆられていきます。

「今夜は、満月。波がたかいね」

「なんだかこわいな」

 一ぴきのカニが、つきでた目玉をすくめると、もう一ぴきがわらいました。

「とても遠くにいくよ。ね、聞いてごらん」

 二ひきのカニが白いかべにハサミをあてると、貝がらにぶつかる波が、コポコポ・コロコロン、とふしぎなひびきをたてました。

 

 

 銀河のほとりの灯台に、小さなたよりが二つ、とどきました。

 星くずレールにはこばれてきた小さな銀杏。そして、水晶の波にゆられてきた白い貝がらです。

「よくきたね。おや、友だちもいっしょかい」

 星の灯台守が、ニコッと目をほそめました。

「おじさん、かばんの中のお話、読んで」

「おじさん、星くずパウダー、たべたいな」

「いいとも、いいとも」

 灯台守は、旅人をもてなして話を聞くことがだいすき。

 銀河をてらす番人は、灯台をはなれることができません。

 旅に出ることのない灯台守の旅行かばんには、いろんな星の物語を聞いては書きとめたノートがいっぱいです。

 クモの子とカニの子らのために、灯台守は口笛まじりでお茶のしたく。

 さぁ今夜は、チキュウボシからのお客さま。

 野原や海べのお話に耳かたむけあう、楽しいひとときのはじまりです。

                               

 

 

 

                  (おしまい)

 

 

 

 

 

(2011/2 初稿)

(2015/7/30 加筆)

  

©Tomoe Nakamura 2011

 

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  御高覧ありがとうございます。