林のはずれ、よつゆにぬれた草むらに、雨にうたれてカラだけのこった銀杏がひとつ。
ひそひそ話すクモの子が二ひき。
「こんな真夜中、いそいでどこにいくの」
一ぴきのクモの子が、足をのばしてうす茶色のカラに、ひょいとのぼりました。
「いっしょにおいで、見せてあげる」
もう一ぴきがあわててヨイショとのぼると、パチンと音をたて、銀杏のまるいカラがとじました。
二ひきのクモの子をのせ、銀杏はゆりかごみたいにフワリ。草むらをするするすべり出しました。銀杏は、じょうぶなクモの糸であんだレールに、つりさがっていたのです。
「ね、これモノレールだよ。外をごらん」
銀杏のなめらかなカラには、まるい窓がありました。くらい窓のむこうで、よつゆのしずくをキラキラくっつけたクモの糸は、星あかりをつないだレールのように、ずうっと先までのびていました。
*
月がてらす海べに、中がからっぽの二まい貝がポツン。
よこ歩きのカニの子が二ひき。
「こんな真夜中、いそいでどこにいくの」
一ぴきのカニが、はねをとじかけたチョウのような貝がらのすきまに、ツツッとすべりこみました。
「いっしょにおいで、聞かせてあげる」
もう一ぴきがあわててハサミをよこにしてすべりこむと、パチンとりょうがわから、白い貝がらがとじました。
二ひきのカニの子をのせ、白い貝がらは舟のようにプカリ。ざざーっと寄せてきた波といっしょに海に出ました。
白い貝がらは、チョウが空をまうように、プカプカ潮にゆられていきます。
「今夜は、満月。波がたかいね」
「なんだかこわいな」
一ぴきのカニが、つきでた目玉をすくめると、もう一ぴきがわらいました。
「とても遠くにいくよ。ね、聞いてごらん」
二ひきのカニが白いかべにハサミをあてると、貝がらにぶつかる波が、コポコポ・コロコロン、とふしぎなひびきをたてました。
*
銀河のほとりの灯台に、小さなたよりが二つ、とどきました。
星くずレールにはこばれてきた小さな銀杏。そして、水晶の波にゆられてきた白い貝がらです。
「よくきたね。おや、友だちもいっしょかい」
星の灯台守が、ニコッと目をほそめました。
「おじさん、かばんの中のお話、読んで」
「おじさん、星くずパウダー、たべたいな」
「いいとも、いいとも」
灯台守は、旅人をもてなして話を聞くことがだいすき。
銀河をてらす番人は、灯台をはなれることができません。
旅に出ることのない灯台守の旅行かばんには、いろんな星の物語を聞いては書きとめたノートがいっぱいです。
クモの子とカニの子らのために、灯台守は口笛まじりでお茶のしたく。
さぁ今夜は、チキュウボシからのお客さま。
野原や海べのお話に耳かたむけあう、楽しいひとときのはじまりです。
|