マルス
はるか深海より輝きのぼる
オリハルコンの呼び声。
あかがねの剣先が示すのは
ここにある平安よりも
なお胸焦がす新世界への道。
禁断の実はあまく赤い
地上にしたたる紅玉を集めて
錆びついた鎧を飾れ。
沈まぬ黄金郷をさがし出して
愚か者らの王国の名を
聖なる古文書に
新たな筆跡で強引に書き記せ。
黒きイブのエデンより旅立ち幾万年。
冒険者の都アトランティスは
黄昏の水底ふかく
遠い動乱の夢を紡いで眠る。
いま未知なる灯火をかかげ
愚か者らの名を刻んだ箱船が
荒涼と凍てた
朱の惑星の原野めざし
旅立ちのときを迎えている。
深淵より昇る炎の竜
その悪名たかき伝説の御叫びを
いささか調子外れに
誇らかに繰り返し
星の船が出航する。
(2010/10/9)
ロキ
目的には手段を選ばず・・・
おしまいには神々全てを敵にまわして
死者の爪で作った船の舵をとり
バルハラ宮殿へ攻め込んだってかまわない。
大蛇に狼、魔女に亡者
天変地異を待ち望む連中が
こぞって後についてくる。
何もかも、黄昏までのたわむれだ。
真剣な眼差しは
瞳が映す終末を、ひととき忘れる方便に過ぎない。
神々は、母なる一族を踏みつけて巨人と呼び
王を継ぐはずだった私を、邪神とあざける。
同胞は、黄泉の地図を手渡され、この地を去った。
生き延びて未来がつかめるならば
神々を自称する、あの侵略者どもとダンスして
嘘もつく、とびきりの笑顔だって売るさ。
黄金の枝を折りとり、未来の王を討ったならば
今は邪神と呼ばれる私こそ、大地の王だ。
虚しい玉座は、神々の滅びを望んでいる。
失われたものに焦がれ
取り残された者たちの涙に身を焼かれ、もがく。
荒れ果てよ、揺れ動け、血に濡れた大地。
私を縛る、不当な戒めの縄を解く者はいないか。
終末に駆けだす狼の、鎖を解くものはいないか。
(2010/10/8)
蛇
うろこを破って喰い込む氷の牙は
惑わしの毒を 血管に流し込む
彼はあてどなく 回転する
自らの尾をくわえたまま
遠い昔 彼は太陽の使いだった
今 闇の生き物に堕ちている
荒れ地で 深い眠りにつく以前
彼は唄った ガラガラ声で
尾を振り立てて
でたらめな弾き語り
通り過ぎる街角で
さびた弔いの鐘を鳴らした
彼はもう長いこと 目を閉じて
母なる言葉の意味を見失い
故郷の泉 黄金の実のなる樹を
慕っている
彼の名は 楽園を追われた精霊
翼の消え失せた 竜
(2010/10/8)
ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より
©Tomoe Nakamura 2010
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