ポ エ ム (1) 2010年 〜

 
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− 賢治 −

 

 

 

天気輪の柱

 

 

・・宮澤賢治

『銀河鉄道の夜』のイメージより・・

 

 

星祭りの夜のこと。

ひとりの旅人が

黒い画用紙に

銀のペンで

天宮図を描きました。

透明なダイアルを

始まりに戻し

流れた星の跡を

透かし出そうとして。

 

星の暦のダイアルは

あまりにも軽やかに回転し

旅人は小さな指標ひとつすら

重い夜の色の盤面に

書き込むことが出来ませんでした。

 

旅人は銀のペンを投げました。

夢のダイアルより先に

果たすべき仕事や約束があったのです。

 

ジョバンニにはお姉さんがいて

トマトのお料理を作ってくれました。

これからジョバンニは

病気のお母さんのため、ミルクを受け取りに

牧場へ出かけます。

 

霧深い丘の上には

天気輪の柱が一本、くっきりと立ち

南十字星行きの列車が停まっています。

星に呼ばれた少年達は、瞳を閉じ

銀河の軽便鉄道に乗って旅立ちました。

 

風さわぐ丘に、夜汽車の汽笛が響きます。

 

旅人は立ち尽くし

酔えない酔っぱらいのように立ち尽くし

やがて

銀のペンを草むらから拾い上げると

手書きの天宮図のかたわらに

これまで出会った人々の名前を

無数の星の名を記すように

散りばめることにしたのでした。

 

       (2010/9/13)

 

 

 

 

 

 

 

最初の水紋が

銀河を波立たせ 広がる

 

はじまりの言葉を沈め

七色の丸窓から シグナルを明滅させて

くもりなくきらめく 多面体

その内部に波立つ 黒水晶の海

 

夜のなぎさを 裸足で踏んで

水晶海の謎解きへと

泳ぎだして戻らぬ人々

 

銀の砂浜で拾った巻き貝

つめたい潮騒に 耳を押しつけ

はじまりの声の残響を さがす巡礼

 

遠くまで反響する 優しい呼び声

近くにいる人には 届きにくいつぶやき

幾百億の言葉の波間を ゆりかごにして

 

迷い人がどれほど出現したのか

なぜ わたくし達はこんなにも

不器用な生き物に生まれてきたのだろう

 

       (2010/8/30)

 

 

 

 

 

ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より

  

©Tomoe Nakamura 2010

 

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