童 話 2010年 〜

 
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− 光のしずく −

 

 

 

その人は黙々と、大きな大きな暗幕を

針で突いて、小さな小さな穴を

幾つも幾つも

静かに連ねていきました。

髪は真っ白、指はゴツゴツ曲がって

いつからそうして針を握っていたのか

その人以外、誰も知りません。

 

その人は立ち上がり、

暗幕のマントを自分の体に

すっぽりかぶせました。

初めはただ黒いひだが、煙のように

山のように重なっているだけでした。

やがて・・・小さな小さな

無数の光のしずくが

黒いひだの向こうから静かにかがやき始め、

ふしぎな形が浮かび上がりました。

 

光のしずくが描く、その形を

翼を広げて飛ぶ大鳥だという人もあれば、

ゆったりうねって流れる河に似ていると

いう人もいました。

手をつなぎ踊る人々

銀のしぶきをあげる波頭のようだとも・・・

 

色々な人が、光のしずくを指さして

それぞれまるきり違う物語を語りました。

それぞれまるきり違う物語を語る人たちに

ただ一つ、とてもよく似ていることがありました。

光を指さし、光について語りたくて

たまらなくなるということです。

 

物語を語る人たちは、たとえ世を去っても

また新しく現れて、次から次へと

とだえることがありません。

暗幕をすっぽりかぶって姿をかくした

白髪の静かな人は

再び暗幕のなかから出てくることはなく、

ただ漏れてくる光から、その人がいて

明かりのように輝いていることが

知らされるばかり・・・

 

その人が本当は誰で、

何を語りたかったのか

暗幕の向こうにかくれた世界を知ることは

その人の他、誰にも出来ないのですから・・・

 

ただ夢見ることによって

伝わる何かがあるばかり。

 

       (2010/12/7)

 

 

 

 

 

ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より

  

©Tomoe Nakamura 2010

 

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  御高覧ありがとうございます。